雑記帳または /dev/null

ソフトウェア開発、哲学、プログラミング、その他雑多なものもののメモ

メモ - 「わかりやすい」「わかりにくい」考3(WIP)

前提

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「Xはわかりやすい」について

  • 「Xはわかりやすい」とは、前提として「Xがわかる」「Xがわからない」という事態がそれぞれ観念された上で、「Xがわかる」という状態から「Xがわからない」という状態への遷移について、「その遷移は容易にあるいは速やかに行われた」という認識を抱いた時に成立可能となる認識である。
    • したがって、「Xはわかりやすい」とは、自身の内的認識が変化した仕方についての認識であり、また、そのような認識を私は抱いているという言明である。
  • 「Xはわかりにくい」とは、前提として「Xがわかる」「Xがわからない」という事態がそれぞれ観念された上で、「Xがわかる」という状態から「Xがわからない」という状態への遷移について、「その遷移は容易にも速やかにも行われなかった」という認識を抱いた時に成立可能となる認識である。
    • したがって、「Xはわかりにくい」とは、自身の内的認識が変化した仕方についての認識であり、また、そのような認識を私は抱いているという言明である。
  • 「Xはわかりやすい」「Xはわかりにくい」は、いずれも、自身の内的認識の状態変化についての認識であるから、原理的に内的認識についての言明以外にはなりえない。したがって、「Xはわかりやすい」「Xはわかりにくい」という言明は、形式的にはXの性質や特徴について語っているかのように見えながらも、実態としてはXについて何一つ語っていないし、語り得ない。

状態遷移について

  • 「Xがわかる」「Xがわからない」を行き来する状態遷移は、「問い」の発生・変形・解消によって生じる。
  • 「問い」には、不定形の「問い」と、部分定形の「問い」と、定形の「問い」がある
  • 問いが多く発生すればするほど「Xがわからない」に近づき、「Xはわかりにくい」という認識が成立しやすくなる
  • 問いが不定形に近づくほど「Xがわからない」に近づき、「Xはわかりにくい」という認識が成立しやすくなる
  • 問いが解消すればするほど「Xがわかる」に近づき、「Xはわかりやすい」という認識が成立しやすくなる
  • 問いが定形に近づくほど「Xがわかる」に近づき、「Xはわかりやすい」という認識が成立しやすくなる

「わかりやすくする」とは何か

「Xはわかりやすい」「Xはわかりにくい」は、内的な状態遷移のプロセスに対する認識であり、その成立可能性はプロセスにおける「問い」の発生・変形・解消によって左右される。「問い」がより少ないほど、発生した「問い」が定形に近いほど、「問い」の解消が迅速に行われるほど、「わかりやすい」という認識の成立可能性は高まる。 このことを踏まえた時、「XをAにとってわかりやすくする」とはどういう行為であると説明できるだろうか。

「XをAにとってわかりやすくする」という時、それは、AがXに対してどのような/どのように「問い」を抱くかをコントロールしようとしていることに他ならない。 「XをAにとってわかりやすくする」ということ、すなわちAがXに対して「わかりやすい」という認識を成立させる可能性を高めるということは、Aがまさに上記のような認識状態の遷移プロセスを通過するよう誘導しようという試みである。

  1. Xを認識したAが、Xについて「問い」を抱かないようにさせる(「問い」の抑制)
  2. Xを認識したAが、Xについてより定形に近い「問い」を抱くようにする(「問い」の定型化)
  3. Xを認識したAが、Xについて抱いた「問い」を速やかに解消できるようにする(「問い」の簡略化?)

世の「わかりやすくする技術」といったものは、これら 1.〜3. のいずれかあるいは複数を達成しようとした先で編み出されたものとして、位置付けられないか。

具体例

いくつか「わかりやすくする技術」として提示されているものを取り上げて、それらが実際に上記1.〜3.のような効果をもたらすかどうか、検討してみる。

「話にはリードをつける」

最初の題材は、池上彰の『わかりやすく<伝える>技術』を用いる。本書は、元NHKニュースキャスターの著者が自身の経験を元に、"わかりやすい説明の方法、あるいはプレゼンテーションで留意すべきことなど、「わかりやすく<伝える>技術」の基本"を伝えることを目的としている 1

私は、わかりやすい説明とは、相手に「地図」を渡すようなものだと考えています。説明のための「地図」。それを放送業界では「リード」と呼んでいます。 (中略)

あらかじめ「いまからこういう話をしますよ」と聞き手にリードを伝えることを、私は"話の「地図」を渡す"と呼んでいます。「きょうはここから出発して、ここまで行く」という地図を渡し、「そのルートをいまから説明します」という形をとることで、わかりやすい説明になります。 (中略)

たとえば、発表をするとき、「これから◯◯分間、何々についてお話します。私が言いたいのはこういうことです」と言ってから、「そもそも……」と続けてはどうでしょう。 聞き手はみな「結論はそこに行くんだな」と目的地がわかりますから、途中のルートについても一生懸命聞く気になります。それがないまま話が始まってしまうと、迷路に連れ込まれるような気がします。 2

これから何を話すのか、結論は何かを事前に提示して、それから詳細を語る。それによって聞き手は"わかりやすい説明になる"と、池上は言う。

この方法は、先の1.〜3.を用いて、どのように整理できるか(WIP)

参考書籍


  1. 池上彰(2009)『わかりやすく<伝える>技術』講談社現代新書 p.8

  2. 同書 p.18-19